2021/05/07 10:39

● プロセス考課の重要性
 過去の過度の成果主義の反省もあり、プロセスの重要性が叫ばれています。目先の結果だけを追い求めるのではなく、やるべきことをしっかり行って長期的な成果に結びつけようという考えです。また、プロセスをしっかり評価することで、育成にも結び付けることができますし、全体のレベルアップに結び付けることもできます。
 
 ただ、プロセス考課の重要性はわかるが、目標管理による業績評価とちがってプロセス考課は評価が難しいとよく言われます。確かに、基準が明確でなかったり、数値化できない点もあったりして難しい部分もありますが、評価の妥当性と人材育成のためにはプロセス考課は不可欠です。
そこで、プロセス考課を適正に行うための具体的な仕方を以下に解説します。

 なお、ここでいうプロセス考課とは、業績考課に代表される結果の評価以外の、行動考課、発揮能力考課、コンピテンシー考課、能力考課、勤務態度考課、情意考課などの考課項目を指します。

1.事実に基づく人事考課
 人事考課は「部下が行った仕事上の行動と成果」という出来事の評価であり、その出来事を把握することが必要です。特に、プロセス考課は考課期間中の行動事実を評価するわけですから、その行動事実を把握することが大前提になります。

2.行動事実を把握する3つの方法
 考課期間中の行動事実を把握する方法は、次のように3つの方法があります。
① 日頃の行動観察(行動観察記録メモの活用)
② 結果からプロセスの確認(ヒアリング)
③ 自己評価の根拠・理由の確認(ヒアリング)


 考課者は被考課者のすべての行動を見ているわけではありません。考課者自身も仕事をしているわけですから、見えない部分もたくさんあります。勤務態度に関することはある程度把握できますが、仕事の進め方や出先での顧客とのやり取りなどはほとんど見えません。しかし、この見えない部分が大事なところです。見えないから評価の対象にしないということではなく、結果からプロセスを確認することで見えるようにすることが必要です。
また、被考課者本人は自分の行動をすべて知っているわけですから、本人の自己評価も参考にする必要があります。

① 日頃の行動観察(行動観察記録メモの活用)
 日頃の部下の仕事ぶりをよく観察してメモします。ただし、こっそりメモするのではなく、良いことがあれば「ほめる」、いけないことがあれば「叱る」「注意する」というアクションを起こしてメモをします。アクションを起こすことで、その都度の指導育成になりますし、部下も覚えているので評価の納得性が高まります。
このメモした内容を根拠にプロセス考課を行います。

② 結果からプロセスの確認(ヒアリング)
 結果には必ず理由があります。良い結果(目標を上回って達成した)になったということは、本人の行動(努力、能力)が良かったか、何かラッキーなことがあったか、何か理由があります。
 また、悪い結果(目標を達成できなかった)になったということは、本人の行動(努力、能力)が悪かった、何かアンラッキーなことがあったか、何か原因があります。
その理由や原因をヒアリング等で確認して、今後の指導に活かすと共に、プロセス考課に反映します。

③ 自己評価の根拠・理由の確認(ヒアリング)
 まず、自己評価の精度を高めることが必要です。そのためには日ごろから被考課者に評価基準(上司の期待水準)を教えておくことが大切です。さらに、被考課者にも自分の職務行動(良いこと、いけなかったこと)を記録させ、それを基に自己評価するようにします。
面談やヒアリング等で自己評価の根拠となる行動事実や成果物を説明させて、それが事実であると確認できればプロセス考課に反映します。

3.「3つの選択方式」による評価
 行動観察記録メモやヒアリング等で把握した行動事実を書き出します。そして、その事実に対して、「3つの選択方式」で評価をして、人事考課(プロセス考課)シートに転記します。3つの選択とは、次のような「行動の選択」「項目(要素)の選択」「段階の選択」をいいます。

① 行動の選択
 その行動事実は、人事考課の対象に入るかどうかの選択を行います。原則的には「職務活動」に限定します。私生活や休憩時間中の出来事は人事考課の対象にはなりません。

② 項目(要素)の選択
 その行動事実が人事考課の対象に入るとすれば、人事考課のどの考課項目(要素)に該当するかの選択を行います。この場合注意すべき点は、一つの行動事実は一つの考課項目(要素)だけに該当するということです。複数該当させてしまうと「ハロー効果」というエラーになってしまいます。

③ 段階の選択
 評価段階のどれに該当するかの選択を行います。通常、行動観察記録メモやヒアリング等で把握した事実は、ほめたこと、注意したこと、叱ったこと、良かったこと、いけなかったことですから、プラスの評価またはマイナスの評価になるケースが多くなります。標準的な行動事実はメモしませんので、あまり発生します。
逆に言えば、該当する行動事実が一つもなかった考課項目(要素)は、期間中特にほめもしなかった、注意もしなかったということで、「特に問題なかった。期待通り(標準)」という評価になります。

4.「期待を上回る」「期待を下回る」「期待通り」と評価するケース
 3つの選択方式により「期待を上回る」「期待を下回る」「期待通り」と評価するケースは次のように考えられます。

① 「期待を上回る」と評価するケース
・ 行動観察記録メモにほめた出来事が記載されており、その出来事が等級レベルを上回っていた。
動機付けやマイナスからの改善の場合もほめることがあるので、ほめたから必ず「期待を上回る」評価とはなりません。

・ 良い結果(目標の大幅達成など)が出て、その理由が本人の行動(努力、能力)によるものであった。

・ 自己評価が「期待を上回る」となっており、その根拠となる出来事が事実であると証明された。

② 「期待を下回る」と評価するケース
・ 行動観察記録メモに叱ったり注意したりした出来事が記載されており、その出来事が等級レベルを下回っていた。
通常は、期待を下回っているから叱ったり注意したりするので、そのような記載があれば「期待を下回る」評価となります。

・ 悪い結果(目標の未達成など)が出て、その原因が本人の行動(努力、能力)によるものであった。

・ 自己評価が「期待を下回る」となっており、その根拠となる出来事が事実であると証明された。

③ 「期待通り(標準)」と評価するケース
・ 行動観察記録メモにほめた出来事も注意した出来事も記載されていなかった。
すなわち、期間中特に問題なかった。

・ ほぼ期待通りの結果(目標のほぼ達成など)であり、その理由が本人の行動(努力、能力)によるものであり、特に、ラッキーやアンラッキーがなかった。

・ 自己評価が「期待通り」となっており、その理由が妥当(上司が納得できるもの)であった。

5.プロセス考課の評語の意味
 人事考課のある項目に「期待を下回る」という評語がついたからといって、考課期間中ずっと「期待を下回っていた」ということではありません。
いつもは「期待通り」であり時たま「期待を下回る」ことがあったので、今後そのようなことをなくしましょうという意味で「期待を下回る」と評価したわけです。

同じように、人事考課のある項目に「期待を上回る」という評語がついたからといって、考課期間中ずっと「期待を上回っていた」ということではありません。
いつもは「期待通り」であり時たま「期待を上回る」ことがあったので、今後そのようなことを増やしましょうという意味で「期待を上回る」と評価したわけです。

「期待を下回る」行動を上司部下共に認識して、それをなくしていくようにし、「期待を上回る」行動を上司部下共に認識して、それを増やしていくようにすることで、個人の成長、組織の成長につなげていこうということです。

6.これからのプロセス考課
 よい仕事を続けていくためには、「結果のチェック」と「結果でチェック」が必要です。「結果のチェック」は業績考課に該当する部分であり、成果の確認になります。これはこれで大事なものですが、この成果だけに一喜一憂するだけでは今後の成長には結び付きません。

やはり「結果でチェック」することが必要です。どこが良くてよい結果になったのか、
あるいはどこが悪くてよくない結果になったのか、その結果に至った理由や原因を確認することが必要です。この必要な部分がプロセス考課になります。そして、そのプロセス考課の結果を踏まえて、よい部分は今後の仕事に活かせるように習慣化する、いけない部分は改善していくことで仕事のレベルアップにつながります。まさに、PDCAサイクルを回していくための要となるわけです。

 このように考えると、今後のプロセス考課は発揮能力の評価が中心になり、評価のために根拠も「考課者の行動観察記録メモ」から「結果からプロセスを確認するためのヒアリング」や「自己評価の理由の説明」に比重が変わっていくものと考えられます。
 これからの人事考課(プロセス考課)は、考課者と被考課者との信頼関係と親密なコミュニケーションに支えられた合作の評価になることが望ましいと考えます。